腸の構造と役割
2018.03.26

内臓の元祖「小腸」の働きと脳との意外な関わり

小腸の働きは栄養の消化・吸収です。腸は動物を動物たらしめる臓器であり、進化の過程で脳のお手本となりました。ここでは、小腸の働きや構造、そして内臓の「元祖」としての意外な一面を、ドクター監修のもと解説します。

小腸は食べ物を消化し、栄養素を吸収することに特化した器官(内臓)です。これだけ聞くと、小腸の機能なんてその程度かと思う人が多いでしょうが、実はあなどれない存在です。なぜなら、内臓の中で最初にできたのは腸であり、人体で最も優秀と思われている脳は、腸の機能を真似してできたもので、いまも腸からの影響を受け続けているからです。ここでは、小腸の働きとともに、内臓の「元祖」としての小腸のすごさを解説します。

小腸の働きは「消化・吸収」

私たちが飲食したものは、口から食道を通って胃に入り、食べ物は胃酸で消化されます。その後に小腸に送られ、引き続き消化され、栄養素の大部分をここで吸収します。食べてから小腸に届くまでの時間は、液体は約5分、個体は約4時間です[1]。

小腸が胃酸で溶かされないのはなぜ?

小腸はいくつかの部位に分かれており、胃につながっている部分は十二指腸と呼ばれています。ここには強い酸性の胃酸と混ざった食べ物(消化粥)が入ってきますが、胃の出口(幽門)から約10cm先にある第十二指腸乳頭から弱アルカリ性の膵液、胆汁が出てきて中和してくれるので、小腸が酸で溶かされることはありません。

小腸はもつれたりしない?

生きている人間の小腸の長さは約2~3m、直径が約4cmの細長い管です(死ぬと長さが伸びて約5~6mになります)。こんなに長い管が狭いところで消化のために蠕動運動しているので、もつれたりしないか心配になりますが、腸は腸間膜という膜で吊られて固定されているので大丈夫です。

小腸には、胃の方から順番に十二指腸(約25cm)、空腸(残りの約2/5)、回腸(残りの約3/5)という名前が付いています[1]。空腸と回腸は機能的にはあまり変わりがありません。空腸は死んだ人を解剖すると中に内容物がなくて空なのでこの名が付きました。また、回腸の由来は長く回りくねっている形状そのものです[2]。

小腸はどうやって消化・吸収している?

小腸に消化粥が入ってくると、それを察知して蠕動運動で大腸の方へ移動させると同時に、消化と吸収を行っていきます。消化と吸収は小腸の粘膜、すなわち壁の部分で行われるので、これを効率的にするためには消化粥と小腸の壁が接する面積を多くする必要があります。

小腸の内側の壁は絨毯のような構造になっており、その毛(絨毛)は小腸全体で約3000万本あるといわれています。その毛の1本には約5000個の栄養吸収細胞が存在し、さらに細胞には約2000本の微細な毛(微絨毛)が生えており、そこで栄養素の最終的な消化(膜消化)を行い、すかさず吸収していきます。

このような構造なので、小腸の表面積は約200平方mに達するといわれており、だいたいテニスコートくらいの広さになります。そのテニスコートには0.5~1.5mmの絨毛が生えており、さらに拡大してみるともっと細かい、長さ1μmの微絨毛がびっしり生えているということになります[2]。

この微絨毛を介して吸収細胞が、糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルといった栄養素を吸収し、血液やリンパ液を経由して全身に送り出しているのです。

一番目にできた内臓は腸

「一番目にできた内臓」や「受精卵が胎児になる過程でつくられる最初の器官」を聞かれて、「腸」と正答できる人は多くはないでしょう。このことは、進化の過程を考えてみると納得できます[3]。

動物にとって「消化」は生命の根幹

生物は大きく植物と動物に分けることができます。この2つは生命活動を維持するためのエネルギーをどのように確保するかという点が大きく異なります。すなわち、植物は太陽エネルギーを光合成で生命エネルギーに変えることにしましたが、動物は他の生物のエネルギーを奪って生きる戦略を取りました。つまり、動物にとっては他の生物を捕食して消化し、吸収して自らのエネルギーにすることが生命活動の根幹なのです。言うまでもありませんが、人間(ヒト)は現時点で最も繁栄している動物の一種(ホモ・サピエンス)です。

腸がない動物はいない

最も原始的な動物は、アメーバーのような単細胞生物です。細胞を包む膜(細胞膜)は柔らかく、他の生物に接するとそれを包んで取り込み、消化してエネルギー源としました。もう少し進化すると、単細胞ではなく多細胞となっていきます。その多細胞生物のうち最も単純な構造をしたものがヒドラ(腔腸動物)で、これは腸が主体の生き物です。その後の進化で、より効率よく生存するために、脳や脊髄、心臓や肺、骨や筋肉が追加されていきました。すなわち、脳や心臓がない動物はいても、腸がない動物はいないのです。

胎児も腸からできていく

受精卵から胎児になっていく過程では、進化の過程を繰り返すと言われています。人間の受精卵では、しばらくはそのまま分裂を繰り返して細胞の数を増やし、器官が作れる程度までになると、卵の内側にトンネルが開いたような形になっていきます。このトンネルが腸の原型です。やがて、腸の一部がふくらんで胃に、一部が突き出して膵臓や肝臓、胆嚢(たんのう)になります。また、肺もこのトンネルの一部から派生して作られます。なお、脳や脊髄の原型となる神経管は、後から別工程で作られることになります。

脳は腸を真似してできた

先ほど、腸だけの動物がいると書きましたが、それでどうやって他の生物を捕まえて食べるというような動作ができるのか不思議かもしれません。実は、腸の周りには神経細胞がいて、それらが情報を伝達し合ってうまく腸が動くように制御しているのです。人間の腸にも、粘膜下と筋肉の間でそれぞれ神経細胞がネットワークを形成しています。

脳ができたのは腸よりもずっと後でしたが、その基本構造は、腸の周りにある神経細胞やそれが出す神経伝達物質(セロトニン、アセチルコリンなど)を流用して作られました。わかりやすく言えば、腸のやり方を真似して脳が作られたということです。もちろん、腸の神経が求められている働きと、脳神経が受け持っている働きは大きく異なりますが、どちらが「元祖」かと言われれば、間違いなく腸です。

腸と脳はつながっている―腸脳相関―

このように、腸と脳はいわば兄弟のようなもので、主に4つのルートでお互いに連絡を取っています。脳から腸へは交感神経と副交感神経で、腸から脳へは迷走神経と脊髄神経で情報が伝達されます。そして、脳からの司令で腸が制御されるのはもちろん、腸から脳へと送られた情報もまた、脳に影響を及ぼしていると考えられています。これを「腸脳相関」と言います。腹痛や腹部の不快感といった意識できる情報のみならず、脳に報告されているけれど意識されていない情報もあります。これが一因で過敏性腸症候群(IBS)という病気が起こっているのではないか、と考えられています[3]。

つまり、腸が不健康になると、脳も影響されて病気になってしまう、ということがあり得るということです。私たちは普段から腸のことを意識することはほとんどないですが、腸を健康に保つことが、脳を含めた身体全体の健康にもつながっているということを知っておいてください。

参考文献

  1. [1]日本臨床栄養協会編. NR・サプリメントアドバイザー必携 第3版. 第一出版 2017; 18-36
  2. [2]日本雑学研究会. データでわかる人間のカラダ. 明治書院 2009; 24-27
  3. [3]福土審. 内臓感覚―脳と腸の不思議な関係―. 日本放送出版協会 2007; 59-90

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